メンタルヘルス・コラム

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目に見えるものが真実とは限らない
         --- 「コンフィデンスマンJP」から
     2018. 6. 21

目に見える事実は、とらえ方により違ったものになる
嫉妬、羨望という気持ちを持つ秀男に
ダー子が突きつける真実
そのやりとりは                        
心理療法的な対話ともいえるのか
あさ心理室

『コンフィデンスマンJP』というドラマを通して

 4月から1話完結で放映されていたテレビドラマ「コンフィデンスマンJP」が
先日6月中旬、第10話、最終回を迎えた。

 このドラマは長澤まさみ扮する「ダー子」が、ボクちゃん、リチャードと手を組んで
抜群のチームワークで度肝を抜く作戦を仕掛けて、毎回、様々な業界を舞台にして
欲望にまみれた悪徳大富豪たちから大金をだまし取るといったストーリーのコメディーである。

3人の詐欺師にまんまとお金をだまし取られる悪人。
痛快なエンディングを迎えるというスカッとする話なのであるが、
実は単にそれだけにとどまらず、人のこころについて考えさせられる余韻が残るドラマでもある。

人の目を狂わせる嫉妬、羨望という感情

 最終回は、中国マフィアを率いる鉢巻秀男(佐藤隆太)・別名 孫秀男が登場。
彼は元々父親と離れ、母親とともに香港で小さなレンタカー会社を経営していたが、
来日し巨額の富を築く。
彼の父は、かつて巨大な中国系マフィア組織のボスであったが、
「子犬」と名のる詐欺師に15億円をだまし取られ失意のうちに死んでいった。
父親を騙した詐欺師のことを彼はたいそう恨んでおり、
その「子犬」がダー子たち3人のうちの誰かであろうとにらみ、復讐に乗り込んできた。

 しかし、彼の恨みは単に父親が詐欺にあったことに対してだけではなかった。
『自分が父親に愛されていなかったこと』への怒りや悲しみがその背後にあった。
父親は、自分や母親にいつも暴言を吐いていた。
父親から優しい言葉をかけてもらったことがない、認められたことがない、彼はそう感じて育った。
結局、彼と母親は家から追い出され、遠く香港の地で二人で暮らすことになった。
その一方で、父親は、自身を騙した『子犬』という詐欺師を最後までかばい、
『きっとあいつにも何か事情があったのだろう、見逃してやれ』と言い続けていた。

そこまで父親の心を奪い、大切にされた『子犬』の存在を彼は許せなかったのだ。
彼は、父親は彼と母親を愛さず遠ざけて家から追い出した、と認識していた。
自分は愛されず、それでありながら父親の愛情と信頼を鷲掴みにしていった詐欺師『子犬』。
許せない。嫉妬、羨望という気持ちである。

信念は真実なのか

『父親は自分や母親を愛していなかった』 これは絶対的な信念として秀男の心に刻まれていた。
この信念は真実であるのか。
ダー子と秀男のやりとりの中で、この信念は違った角度から考え直されることになる。
「子犬」は秀男の母親の得意な料理『エッグタルト』を差し入れることで
秀男の父親の信頼を手に入れたのだった。
実は父親の心の奥には妻や息子・秀男への愛があった。
裏組織のボスとしての生活に実は疲れていた父親は、
このマフィアの世界から愛する妻と息子を遠ざけるために彼らに冷たく接し追い出した。
これが真実なのだと、ダー子は秀男に突きつける。

 目に見える事実は、とらえ方によって全く違ったものに変わることがある。
そしてそれは信念となり人の心に棲みつく。
その信念の虜になって、何が真実で何か嘘なのかわからなくなり、心の苦痛をもたらすことになる。

 この最終回のドラマの山場ともいえるような、ダー子と秀男のやりとりは、
心理療法的な対話だったようにも思われる。
自分の心にある事実、認識、信念に今までとは違った角度から光を当ててもう一度吟味し直す。
ダー子と秀男のように1回だけのやりとりで展開するほど簡単ではないが、
実際の心理療法ではこうした作業を丁寧に時間をかけて行っていく。
ある時、驚きを伴って、そこで何か違った真実に出会えることがあるように思う。

 「コンフィデンスマンJP」のキャッチコピーとして引用されているゲーテの言葉である。
     『人に欺かれるのではない。自分が己を欺くのである』     ―ゲーテ『格言と反省』―

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